「せっかく入ってくれた従業員だから、できるだけ長く働いてほしい」
経営者であれば、そう考えるのは当然だと思います。
従業員を大切にすることはとても大切です。
給与や休み、働き方について、できるだけ従業員の希望を聞いてあげたい。
会社としてできることは、できる限りやってあげたい。
私も、それ自体は間違っていないと思います。
ただ、ここで一つ考えておきたいことがあります。
「従業員を大切にすること」と「従業員の言うことを何でも聞くこと」は、
同じではありません。
従業員の希望は、一人ひとり違います
例えば、ある従業員から、
「もっと休みを増やしてほしい」
と言われたとします。
会社として、それに応えることができれば問題ありません。
でも、別の従業員からは、
「休みを増やすより、給与を上げてほしい」
と言われるかもしれません。
さらに別の従業員からは、
「給与よりも、勤務時間を短くしてほしい」
と言われるかもしれません。
当たり前ですが、
すべての従業員の要望が同じになることは、
ほとんどありません。
一人ひとり考え方も違えば、家庭環境も違います。
だから、すべての要望に応えようとすると、
どこかで会社として無理が出てきます。
会社には使えるお金も、時間も、人員も限りがあります。
すべての従業員の希望を叶えていたら、
会社そのものが立ち行かなくなる可能性もあります。
「あの人だけ特別」が組織をおかしくする
特に気をつけたいのが、「特別扱い」です。
例えば、
「この人が辞めたら会社が困るから、今回は特別に認めよう」
という判断。
その時は、それが会社にとって一番良い選択に見えるかもしれません。
でも、その「特別」を見ている従業員はどう思うでしょうか。
「なぜ、あの人だけ?」
「自分には認めてもらえないのに……」
そんな不満が生まれるかもしれません。
そして、その不満が別の不満につながっていく。
一人を引き留めるために作った特別な対応が、
組織全体の不公平感につながることがあります。
もちろん、個別の事情に応じた配慮が必要な場面もあります。
だから「全員を完全に同じにしなければならない」という話ではありません。
ただ、会社として、
「ここまではできる。でも、ここから先はできない」
という線引きを持っておくことは大切です。
人は「白」だけでも「黒」だけでもない
ここで、私が以前から感じていることがあります。
人には、白い部分もあれば、黒い部分もあります。
会社にとって、その従業員が良い状態のときには、
「仕事ができる」
「会社に貢献してくれている」
「周りからも信頼されている」
そんな白い部分がよく見えます。
ところが、会社と従業員の考え方がぶつかったり、
その従業員が会社にとって都合の悪い存在になったりすると、
「協調性がない」
「ルールを守らない」
「周りに不満を言っている」
といった黒い部分が急に見えてくることがあります。
でも、本当にその人が急に黒くなったのでしょうか?
私は、そうではないと思っています。
最初から、その人には白い部分も黒い部分もあった。
ただ、その時の会社との関係や状況によって、
見えてくる部分が変わっただけなのではないでしょうか。
だからこそ、
「この人は優秀だから」
「この人には辞めてほしくないから」
という理由だけで、
会社のルールや判断を曲げてしまうことには注意が必要です。
「辞めない会社」を作ることが目的ではない
もちろん、優秀な従業員に辞められれば、
会社にとって大きな痛手になることもあります。
できれば辞めてほしくない。
その気持ちは当然です。
でも、「辞めてほしくない」という気持ちが強すぎるあまり、
会社の軸まで曲げてしまうのは違うと思います。
会社としてできること、できないこと。
大切にする考え方。
守ってほしいルール。
それをきちんと決めておく。
そして、その考え方に納得できない従業員がいるのであれば、
残念ながら会社を離れるという選択になることもあります。
どんなに優秀な従業員であっても、
その人を引き留めるために会社のルールを曲げない。
これは冷たい考え方ではなく、
むしろ会社を守るために必要なことなのではないでしょうか。
会社の軸が、従業員を守ることにもつながる
会社には、経営者の考えがあります。
そして、従業員にもそれぞれの考えがあります。
すべてを一致させることはできません。
だからこそ、
「うちの会社は、こういう考え方で経営しています」
「ここまでは会社として対応します」
「でも、これはできません」
という軸を持つことが大切です。
その軸があるからこそ、
従業員も会社に何を求めることができるのかが分かります。
そして、経営者自身も、
誰か一人の要望に振り回されずに判断することができます。
従業員を大切にすることは、
従業員の言いなりになることではありません。
むしろ、会社としての軸をしっかり持ち、
その中で従業員と向き合うこと。
それが、長く続く会社を作るために大切なのではないでしょうか。
最後に
「従業員に辞めてほしくない」
その気持ちは、とても大切です。
でも、「誰にも辞めてほしくない」ということだけを目標にしてしまうと、
会社の軸がなくなってしまうことがあります。
会社にとって大切なのは、
誰か一人を特別扱いして引き留めることではありません。
経営者と従業員がお互いに納得できるルールや関係を作り、
その中で一緒に会社を成長させていくこと。
そのためには、会社が小さいうちから、
「うちはどんな会社にしたいのか」
「従業員とどう向き合っていくのか」
を考えておくことが大切だと思います。
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